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薫さんのひとりごと

店主、名古屋薫が、お店に関係あることや、お店に関係ないこととか、
いろいろ書いたりするかもです

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2017-05-25 【一期一会、そして、ごちそうさま】

昔、演劇を少しかじっていたせいか、人間観察が好きでございます。ふと出会った赤の他人様に対して、その人がどんな心境でいるのか、どんな人生を送ってきたのか、今日どんな出来事があったのか、そんな想像を巡らすのが楽しいのでございます。今日は、そういったお話。

お店が終わり、小腹が減り、ちょいといつもの松屋へまいりました。店の外から店内に目をやりますと、券売機の前で男性が操作中。狭い店内で並ぶのも何ですので、店の外のメニューを見ながら、何を食べようか迷っておりました。

券売機の男性は、初老というか60才くらい。作業着に作業帽。この時間に食事というのは、トラックの運転手さんかな? でも、店先に駐車しているトラックは見当たらない。券売機に慣れていない様子から、ファーストフード店には馴染みが無い様子。今日は、何らかの事情が有って、仕方なくファーストフードの夜食となったのでしょうか?

その男性、かなり券売機に苦戦しております。ワタクシも、おもむろに扉を開け店内へ。その男性の操作を、後ろから肩越しに観察しておりました。券売機はタッチパネル式。そのタッチパネルを、ほぼ手のひらでベタッと押しておりました。小さなボタンが押せず、また違うボタンが反応したりしての大苦戦。酔っている様子はございません。ただ単に、操作に慣れていない感じでございました。

なんかね、後ろからプレッシャーを与えているような気がして申し訳なく思い、ワタクシ、券売機の方へは背を向け、壁のメニューを眺めておりました。ワタクシ、まだ、何を食べるか決めていなかったのでございます。それに、それほど慌てていない。そしてさらに、この微妙なシチュエーションが、たまらなく楽しかったのでございます。

見かねた店員が、券売機の男性に近づいてまいりました。ラテン系の男性店員。ブラジルかな? そんな感じ。でも日本語はすごく上手。日本に長くいらっしゃるのでしょう。その店員が「お手伝いしましょうか?」と近づいてまいりました。

初老の男性は、その店員に何かを見せておりました。店員は、優しく「これ、来週からなんですよね」と答える。券売機の男性、新メニューの記事を見て来たものの券売機に表示されないので困っていたのでしょうか? または、クーポン券を持って来たけど、券売機での使い方が分からなかったのでしょうか? 戸惑っていた理由が、何となく垣間見れたのでございます。

結局、店員さんが操作して、何か丼ものを注文したようでございます。そのやり取りの間、ワタクシ、壁のメニューを眺めておりました。その男性が注文を終え振り向いたときに、ワタクシとどんなやり取りがあるのか、どんな顔を交わすのか、そこにはドラマの一端が発生する可能性を秘めている重要な一瞬。本当はワクワクするような一瞬でございますが、その男性が申し訳なさそうに萎縮しているのではないかと想像し、あえて背を向けておりました。

ワタクシも注文を終え、席に着いたのでございます。ワタクシの席からは、その男性の横顔が見える。運ばれてきた丼を、やや遅めの箸使いでゆっくりと食べていらっしゃいました。ワタクシの注文もじきに到着。食事をしながら、チラリ、チラリとその男性の方に目をやりましたが、その男性と目が合うことは1回もございませんでした。

ゆっくりと箸を進める男性。ガツガツと流し込む食いしん坊のワタクシ。後から食べ始めたワタクシの方が先に食べ終わってしまうのでございます。ふと、男性の方を見ると、やはり下を向いたままゆっくりとお食事中。ワタクシは、立ち上がりながら、やや大きめのしかも優しい声で「ごちそうさま~」の声かけ。店を出ようとするワタクシの背中に、厨房の方から店員の「ありがとうございました~」の声がかかりました。

店を出て、扉をゆっくりと閉めようと振り返ったときに、小さな小さなドラマが生まれたのでございます。扉のガラス越しに、その男性と目が合いました。その男性、店を出て行くワタクシの方を向いておりました。短い滞在期間でしたが、店内ではその男性とは一度も顔を見合わせておりません。店を出るその瞬間、1回だけその男性と顔と顔とが向き合ったのでございます。

その男性の顔、ワタクシには「救われた~」という様に感じられました。ワタクシがそう感じただけで、ご本人の気持ちはどうか分かりませんよ。単に、ファーストフード店で「ごちそうさま」なんて言う人がほほえましく思えただけかもしれません。ワタクシは、その男性に、軽く微笑み返し。そして、店を後にしたのでございます。

その男性、食事中に何を思っていたのでしょう。券売機のモタモタを気にしていたのでしょうか? または、今日一日の出来事を思い出しながら、その疲れを癒していたのでしょうか? その男性に、ワタクシの「ごちそうさま」の声が、何かしらの”想い”を伝えたのは間違いないようでございます。

多分、その男性とは一期一会。もう二度とお会いすることはないでしょう。お互いに、相手がどんな人でどんな生活をしているか全く知りません。接点は、一瞬、目と目が向き合っただけ。でも、こんな一瞬の、小さな小さなドラマにワクワクしてしまうワタクシなのでございます。

ほんと、人生、退屈しない! 年を取ることがどんどん楽しくなってきた今日この頃のワタクシでございました。では、では。


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