店主、名古屋薫が、お店に関係あることや、お店に関係ないこととか、
いろいろ書いたりするかもです
ちょっと前、オートパイロットとペダルの踏み間違いのお話の際、「不便益(ふべんえき)」という学問を紹介いたしました。「不便な物にこそ、益がある」という考え方でございますね。ワタクシ、この不便益という語を聞いた時、小躍りして喜んだものでございます。なぜなら、ワタクシも若い頃から、「不便だからこそ、自分が成長できる」という信念を持っていたからでございます(う~ん、やっと、時代がワタクシに追いついたか!)。
京都大学の教授であられる「川上浩司」さんという方が、この「不便益」を研究していらっしゃいます。不便益には6つの要素が有るとのことですが、その内容を事細かに説明し始めると、とってもとっても長くなっちゃいます。そこでワタクシ、頑張って、ムチャクチャ簡略にまとめてみますよ! みなさま方は、身近な「不便な物」を思い出しながら、当てはめてみて下さいませ。
不便な物をわざわざ使うところに「アイデンティティ」が生まれ、より手順が多くなるので、道具が「キレイにこなれてくる」。また、より器用に使おうとして、使う者の「成長を促す」ことになる。単純な道具ほど物理的な反応が有り、それが「リアリティや安心感」に繋がる。そして、不便を乗り越えたところに「ありがたみ」が生まれ、自分で操作しているという確実な「触感」を得ることが出来る。
まぁこれには、ちょっとしたパラドックスがございます。世の中の全ての「発明」は、「世の中の不便をなくそう」として生み出されるわけですよね。しかしその「便利な発明品」は、人間から「思考すること」や「成長すること」を奪い取るという新たな不便を生み出し、人間はかつての不便に懐古していく。今、レコードやカセットテープが秘かなブームになっているのは、そんな理由ではないでしょうかねぇ。
実は、キヤノンが、「実に不便なカメラ」を発売しております。「インスピックレック」というカメラ。これは何と、液晶画面が無い! ほぼほぼ、レンズとシャッターボタンしかないというカメラ。画角は「枠」で計るという、昔のトイカメラ仕様。でもね、単純な機能ゆえの「遊び心」が生まれ、落としても壊れないなんていう「安心感」がある。他のカメラが持っていない「益」が有るのでございます。
そうそう、アップルのワンボタンマウスなんてのも、頑なに不便を貫いてますよねぇ。ボタンが一つという不便よりも、「シンプルな操作」という益を優先した設計思想でございます。まぁ、最近はOSの高機能化によって必ずしもシンプルな操作とは言えなくなってきてますが、ワンボタンへの拘りは最新のマウスでも固執されております。ガンコやね、アップル。
そうそう、当店のシステムって、種類が少ないでしょ。あれも「便利益」の考え方ですよ! 今でこそ60分のコースがございますが、20年前のオープン当初は、その一番便利な「60分」のコースは存在せず、40分と90分のコースのみでございました。40分は忙しいから工夫する。90分は間を持たせるために工夫する。工夫が有った方が楽しい! そういう狙いでございました。まぁさすがに世の中の流れには逆らえず、4年前に60分のコースを新設しております。
あとねぇ、恋愛も、不便な方がよろしいのかな? 人を愛するというのも、ある意味、「技術の習得」なのですよね。失敗したり傷ついたりしながら、より恋愛が上手になっていくもの。Charの「気絶するほど悩ましい」という曲にも、「うまく行く恋なんて、恋じゃない」という歌詞がございます。その不便を乗り越えたところに、より実感の有る恋愛関係が生まれるということもございましょう。
便利なもの、自動でやってくれるもの、こういったものが多い現代社会ですが、時として、不便なものを選んでみましょうよ。その不便の中にこそ、すごくワクワクすることが隠れているかも知れませんよ。今日は、不便のススメでございました。
キヤノン「iNSPiC REC」
https://cweb.canon.jp/camera/dcam/inspicrec/